ミュンヘンのビアホールにて-1990年ヨーロッパひとり旅 18 Beer Hall in Munich :Solo-travel to Europe in 1990

1990年2ー3月ヨーロッパひとり旅

※初めてご訪問くださった方へ
本稿に関するご案内をご確認ください。

 

ミュンヘンのビアホール Beer Hall in Munich

地元の人たちと飲む楽しい時間 ドイツ

(1990年3月3日の夜、その日出会ったMくんとミュンヘンのビアホールに行くことにした)

まず、ふたりで入って行って、Mくんがソーセージ1やらビールやら買ってくる間に、私がテーブルについて待っていると、店のおじさんが、ぶんぶん手を振って近づいてきた。

上にぶら下がっている札やテーブルを指さして怖い顔をしている。どうやらそこに座ってはいけないらしい。

Mくんが戻ってきたところでテーブルを離れると、カウンターで立ったままビールを飲んでいたふたりのおじさんたちに手招きされた。

小太りで眼鏡をかけた中年の男性と、白髪頭の小柄なおじいさんだ。

「あそこは、余分にお金を払わなきゃいけないんだよ。ここで一緒に飲もう」

「日本から来たのかい?」

おじいさんの方はイタリア人で、おじさんはこのミュンヘンの人だという。ふたりは昔からの知り合いらしい。Mくんも加わって、3人でジョッキを傾けている。

彼は、私に目配せしながら

「こういうのが楽しいんだよ」

と言った。

なるほど、おじさんたちは調子が良い。

ドイツ人のおじさんの方はビジネスマンで、あちこちの国を訪れたことがあるという。

どこか中近東の国に行った時の写真を見せてくれた。手帳にはアラビア文字と数字がメモしてある。私は大学で少しアラビア語を習ったので、抜けている数字をいくつか書き足し、間違えているところを直してあげた。

するとおじさんは大喜びで

「このお嬢さんは、なんとインテリジェントなんだ!可愛らしいだけでなく、頭も良いなんて!」

と大げさにお世辞を言ってくれた。

Mくんもイタリアのおじいさんと意気投合している。おじいさんはフィレンツェの出身だという。

「サケ!フジヤマ!サムライ!」

と知っている日本語を叫ぶと、Mくんが喜んで、それを日本語でメモ帳に書いていく。その文字を見てドイツおじさんが

「日本の文字は複雑だ。絵のようだ」

と感心していた。

それから、年齢あてゲームをしたり、お国自慢をしたりして、大いに盛り上がった。

スポンサーリンク

私は旅の間じゅう、ろくに化粧もせず髪はゴムで束ねるだけ、着ているものもジーンズにトレーナーといった様子だったのだが、ドイツおじさんはそんな私を見て、懸命に褒められるところを探してくれたらしい。

「その赤いゴムは、とてもあなたに似合っているよ!」

「ありがとう」

お礼を言いながら、私はなんだかとても可笑しかった。

「ビールをおごろう。飲みますよね?」

Mくんは大喜びで

「ありがとう!」

私の方は

「ごめんなさい、お酒はちょっと・・・」

「じゃあ、レモネードは?」

「でも、悪いから・・・」

するとM君が日本語で小さく

「こういう時は、好意を受けとくもんだよ」

少し怖い顔をして言う。

「じゃあ、頂きます」

それから3人の飲むこと飲むこと。

私も付き合って、レモネード2杯、コーラを3杯も飲んでしまった。ドイツおじさんが「コーラをたくさん飲んだけど、眠れるかい?」と心配してくれたほどだ。

途中、もうひとり、ひどく酔っぱらった男性が近づいてきた。ちょっと危ない感じで、テーブルをばんばん叩いて怒鳴り声をあげている。

私はちょっと怖くなって、Mくんの陰に隠れた。

イタリアおじさんはぐっと黙り込み、ドイツおじさんも一瞬怯んだが

「テーブルをそんなふうにたたくのは失礼ですよ!」

勇敢に言い返す。

しばらくその男性は私たちに絡んでいた。

何かいかがわしいことを言っていたらしく、通訳を頼まれた店のボーイさんも無視している。でも3人がしっかりガードしてくれたおかげで、私はそれほど嫌な思いをしなくて済んだ。

そろそろお開きの時間が近づく。ドイツおじさんが家に帰らなければいけないというのだ。

「私の妻はいくつだと思います?18歳なんですよ。いや、それは冗談だが、普通のドイツの女性のように太っていなくて2、若々しくて、実に美しい魅力的な女性です。では、妻が家で待っていますから、私は帰らなければいけません。そう、私は妻を愛しているのです!」

そう言って、おじさんは私たちと握手をし、私には手の甲にキスまでしてくれて、上機嫌で帰って行った。

余韻とともにホテルへ

「私たちもそろそろ出ようか」

「うん」

イタリアおじさんは、また別のグループに交じって飲み続けるらしい。

Mくんは、駅のそばのホテルまで私を送ってくれた。

「会って間もないのに、飲みに誘うなんて、オレ、すごいことしたなぁ」

「そお?」

「ま、旅は道連れっていうからね。明日はどこへ行くの?」

「オーストリアへ行こうと思ってる。Mくんはイタリアだっけ?」

「そう、ベネツィア。夜行が出るまでには、まだだいぶ時間があるけどね」

「お付き合いしましょうか?」

「いや、いいよ。ホントに遅くなるから」

「じゃあ、ここでお別れ。気を付けてね」

大きく手を振りながら、Mくんは振り向きもせずに駅前の灯りの中に消えて行った。

スポンサーリンク

ホテルの部屋は昨日のダブルルームからシングルの部屋に変わっていた。

暗い部屋に戻って、私はひとつため息をついた。

誰かと半日一緒に過ごしたのは何日ぶりだろうか。

ドイツおじさんは自慢の奥さんの手料理でも食べている頃だろうか。イタリアおじさんはまだ飲んでるのかな。

そうだ、絵葉書を書いてあったのに、切手がなくて出してない。明日は一番に郵便局を探そう。

私の旅はまだこれからだ。

19 オーストリア へ続く)

 

 

タイトルとURLをコピーしました