デン・ハーグの夜‐1990年ヨーロッパひとり旅 11 Evening in Den Haag :Solo-travel to Europe in 1990

1990年2ー3月ヨーロッパひとり旅

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デン・ハーグの夜 Evening in Den Haag

行けなかった場所ーオランダ

本当は、このデン・ハーグではマドローダム Madurodamに行ってみたかった。

オランダの名所がミニチュアになって再現されているという遊園地だ。

でも、このマドローダム、私が行った2月はお休みだったらしい。3月から10月までの開園だという1

今から思うとマウリッツハイス美術館 Mauritshuis(レンブラントなどの作品が展示されている)2オムニーヴェルスム Omniversum(宇宙シアター3)などに行けばよかったのにと思うのだが、その時の私は駅からホテルへの道をもう一度ぶらぶらと歩いてみただけだった。

それでも途中にはビネンホフBinnenhofも見えたし、商店街のような所を歩いてウォッチングしただけでも面白かった。

ハンバーガーを買うのも ひと苦労

どこかで夕食を取るつもりでぶらぶらと歩いたが、ひとりでレストランに入る勇気が出ない(旅の終わりまで、ひとりでレストランに入ることには抵抗があった)。

結局、マクドナルドへ入って11.55Fも買い込み(と言ってもチーズバーガーセットだけだったが4)ホテルの部屋でテレビを見ながら食べた。

そもそも日本にいてさえ、ひとりでレストランに入るなんてためらってしまうのに、日本人というだけで視線を浴びるこの異国の地で、そんなことできるわけがないと言えばないのである。

マクドナルドに入った時も注目されてしまった。

わりと混んでいて、それだけで怯んでしまう。注文するとき、店員さんが「ピクルスは入れる?マスタードは?」といちいち訊くので、貧乏性の私は、追加料金を取られるかと思い、全部「要りません」と答えた。

するとそれが間違いのもとだった。

「入れてちょうだい」と言えば普通に作るものを、要らないと言ったものだから、私の分だけ特別になってしまったのである。

混んだ店内、順番を待つ人が並ぶカウンターで、私はひとり時間を食う迷惑な客以外の何者でもなかった。

私の注文を取った店員さんは、ハンバーガーが出来上がるのを待ちながら、紙袋をもてあそんでいる。つかえているのに気付いた他の店員がやって来て「どうしたの?」と訊くと、お兄さんは何やらぶつぶつ答えていた。

最初、私はどうして自分の分だけ遅いのかわからずイライラしていた。そのイライラ顔を見て、迷惑そうにしていたお兄さんもちょっと申し訳なさそうな表情に変わる。

私としては「どうしてこんなに遅いのよ?!」

むこうにしてみれば「面倒な注文をする客だ」というわけだ。

それにしても、周りのお客さんにジロジロ見られながらぼーっと待っているのは気まずかった。日本では「ピクルスは抜く?」なんて訊かれないんだよ!

 

やっとのことでハンバーガーを手に入れ、ホテルに戻る。

オランダ語はまるでわからないけれど、せっかくだからとテレビもつけてみた。

ところがこれが意外に面白い。

ギャグなのか本気なのか分からないような刑事ものをやっていたり、日本でも日曜の昼間にやっていそうな歌番組をやっていたりする。

セリフが分からなくてもストーリーはなんとなくわかるし、歌の方は歌詞が分からなくても十分楽しめる。

コマーシャルも面白かった。

日本と同じように、コンパクト洗剤の宣伝が流れて

「ほら、こんなに少しでもよく落ちる!」

てな具合にポンと箱を投げ上げてコンパクト差を強調しているのだが、今までの5分の3くらいの大きさにしかなっていない。「日本のは3分の1だぞ」と自慢してやりたくなった。

ハンバーガーを食べ終わると、洗濯をし、部屋の中にロープを張って干す。

カーテンは閉め切ってジーンズも靴も脱ぎ、楽な格好になる。

ベッドの上にガイドブックやパンフレットを広げて、私はひとり、くつろいだ。

“Nothing compares 2 U”を聴きながら

テレビではその時、歌番組をやっていた。

ティナ・ターナーやプリンスの曲が流れるのをなんとなく見ていると、見たことのない女性アーティストの曲が流れ始めた。

黒い背景に黒いタートルネックを着て、ベビーショートの顔だけが浮かんでいるような画面から、目が離せなくなった。

最初は静かに、次第に激しくなっていく。

シニード・オコナーSinéad O’ConnorのナッシングコンペアーズトゥユーNothing Compares 2 Uだった。

唇の動きがまるで喧嘩をしているようだけど、誰かを想っている歌だということは分かった。その迫力に押されて、私は膝を抱えて画面を見つめていた。その旋律と、彼女の瞳と、ひとりきりのホテルの空気がひとつになって、一度聞いただけなのに、この曲はそのあと旅の間じゅう、耳から離れなかった。雪の降るドイツの街でも、ベニスの運河の上でも、バルセロナの丘でも、パリのモンマルトルでも。

窓の外はもう暗い。

ホテルの脇に車が止まっていて、若い男の子が2、3人騒いでいる。

道路脇のレンガの花壇の縁に、女の子がふたり腰を掛けて、誰かを待っている。

犬の散歩をしている人もいる。

旅の3日目が終わる。

あまり観光らしいことをしていないなぁ。

ほとんどをホテル探しと道に迷うだけで過ごしてしまっている。重い荷物を背負って歩いてばかりだから、身体はとても疲れている。

ベッドに腰掛けて脚を眺めたら、膝小僧がぽこっと出てきた感じがする。日本に帰るまでに痩せるかもな。

明日はアムステルダムだ。

12 アムステルダムで迷子 へ続く)

 

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