アムステルダムで迷子‐1990年ヨーロッパひとり旅 12 Lost in Amsterdam :Solo-travel to Europe in 1990

1990年2ー3月ヨーロッパひとり旅

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アムステルダムへ Heading for Amsterdam

(旅の4日目、デン・ハーグのホテルから日帰りでアムステルダムに向かう)

朝食後、デン・ハーグからアムステルダムへ日帰り旅行に出発

2月25日。

天気は良くない。

7時前に目を覚まし、部屋の外のボックスを覗くと、トレーに乗った朝食が入っていた。パンとチーズとハム。

コーヒーを淹れようと思ったが、水道の水はお腹を壊すかもしれないと思い、やめた。

おかげで飲むものがなく、パンが喉を通りづらくて少し残してしまった。

残ったパンを袋に入れ、出掛けることにする。

 

デン・ハーグ10:22発-アムステルダム11:08着の電車に乗るため、駅へ向かう。

駅前には一面に広がるクロッカス。

小さな女の子がしゃがみこんで花を見ている。パパとママに呼ばれて、躓きそうになりながら走っていく。

オランダではぜひ花畑を見たいと思っていたが、まだ3月にもならないこの時期はまだ寒く、花はクロッカス以外ほとんど見られなかった。

オランダ、ドイツでは、花は日本に比べるとだいぶ安く、薔薇の花が10本くらいの束で200円か300円くらいだった。

一方パリなどでは、日本とほとんど同じくらいの値段で高かった。

デン・ハーグにも花屋さんがあったので、1本だけ薔薇を買おうとしたら追い払われてしまった。束でしか売らないらしい。ホテルの部屋に飾りたかったのに。

アムステルダムへ行く電車の中で、私は落ち着かなかった。

本当にそんなに治安が悪いんだろうか。

でも、アンネの家を見てみたいし、ゴッホ美術館や国立美術館にも行きたい。

どんなに怖い所だと言われても、たくさんの人が訪れているんだし、きっと日本人もいるだろう。見るところだけ見て帰ってくればいい。

そんなことを考えて身構えていた私だが、アムステルダム駅に入っていく電車の中から見た街の第一印象は決して悪いものではなかった。

実を言うと、最初はアムステルダムに着いたことに気付かず、外を見ていて、

「あ!きれいな可愛い街だ!」

と感心していたら、そこがアムステルダムだったのである。

ふたたび迷子 歩いただけのアムステルダム

周りに注意しているようで、全く不注意な私は、なんとその日1日もまた道に迷って過ごしてしまった。

駅前に出てから、日本人旅行者らしき人に3回ほど声を掛けたが、道連れが見つからず、まずVVVへと行く。

そこで街の地図を買い(2.95Hfl)歩き出した。

アムステルダムにもトラムバスが走っているが、すっかりトラム恐怖症に陥っていた私は、地図を見ながら歩き出した。

アムステルダムは扇状に運河が走る街だ。

人通りも多く、まずは駅前の道をまっすぐ歩いて、国立美術館へ行こうと決める。

スリやひったくりが多いという話だったので、私は緊張しきっていた。

600~700mも歩くとダム広場に出た。

たくさんの人が、モニュメントをバックに写真を撮ったり、大道芸人のパフォーマンスに見入ったりしていた。

さらに歩き、運河をいくつか越えると、国立美術館があるはずだった。

しかし、行けども行けどもそれらしい建物が見当たらない。

運河はもう何度か渡ったはずだ。

空は曇っているし、人通りはほとんどなくなっていた。ここで気が付いてすぐ道を訊くなりすればよかったのに、私はさらに歩いた1

ひたすら歩いて、大きなビルが並ぶ通りへ出た。

道路沿いの家の庭で遊んでいた子どもが、珍しそうに私を見送る。

もうお腹はペコペコだけど、適当なお店も見当たらない。

持ってきたパンを食べようかとも思ったが、落ち着けそうな場所もないし、人通りが少なすぎて、ぼーっとランチなんて食べていたら襲われるんじゃないかと思うと、そんな気にもなれなかった。

さらに歩くと、ハイウェイなのか電車なのか高架が見える。思わず私は声を上げた。

「えーーー?何、あれ?!」

どう見ても美術館、それも「国立」と銘打たれるような立派なものなんて建っていそうにないところまで来てしまったことに、やっと気付いたのである。

私は、来た道を振り返った。そして辺りを見渡して、まさに途方に暮れてしまった。

通るのは車ばかりで、ほとんど人は歩いていない2

 

(どうしよう)

 

地図をいくら見ても、道路標示がなくどこに自分がいるのかわからない。

砂埃は舞うし、お腹は空くし、脚はもうクタクタだし…。

そこへ大きな真っ黒い犬を連れたおじいさんが歩いてきた。ぼさぼさの髭を生やし帽子をかぶっている。ギョロっとしたその目と私の目が合った。瞬間、おじいさんがにこっと笑ったので、私もにっこり笑い、道を訊いてみようと地図を指さしながら近づいた。おじいさんはサッと顔を強張らせたが、道を尋ねていると分かってくれたらしく、大声で言った。

「WIBAUT STREET!」

なぜか私の手にした地図を見ようともしない。「WIBAUT STREET!」と、あと2回ほど叫んで、私が同じように繰り返すと、彼は安心したように、地下鉄の駅に消えて行った(犬を連れたまま)。

「ウィバウトストリートぉ?どこよ、それって…」

私はぶつぶつ言いながら地図を見る。

 

・・・。

 

あった、あった!・・・えーーーっ?

 

地図上では、アムステルダム駅を上にすると、その通りは斜め右下に向かって伸びている。

目指す美術館はもっと左の方だ。

私はいつの間にか、アムステル川も越えて、ひたすら郊外へ向かって歩いていたことになる3

自分に腹が立ったが、来た道を戻るしかない。

もうクタクタだというのに。お腹もペコペコだ。

歩く元気を取り戻すため、どこかでパンを食べようと思った。少し歩くとベンチがある。へたり込んで、ゴソゴソとバッグの中からパンを取り出した。

飲み物は持っていなかったので、パサつくパンを何度も噛んで、苦労して飲み込んだ。

この辺りは日曜日だというのにあまり人が歩いていない。

アムステルダムという街に対して警戒心の塊だった私は、落ち着かず、パンを食べ終わるとまたすぐに歩き始めた。

もう今度は迷うわけにはいかない。

ひとつひとつの角を地図で確認しながらやっと人通りの多いところまで戻ることができた。

ここまでくれば安心だろう。扇状に広がる街の輪郭を取るように伸びる広い道をなぞって行けば、左手に美術館が見えるはずだ。

(それにしてもどうして迷っちゃったんだろうなぁ)

運河に沿って歩いて行くと、途中に公園があった。そこにもたくさんのクロッカスが咲いている。

高校生か大学生くらいの白人男女6~7人のグループがいて、そのクロッカスの真ん中に立った木の根元にかわりばんこに座り込み、写真を撮って騒いでいた。

私はベンチに座ってまた少し休んだ。私もクロッカスの中で写真を撮りたかったが、頼めそうな人もいない。諦めて、ただそのベンチとクロッカスを写真に収めた。

日曜日だというのにあまりひと気がなかった公園。クロッカスはきれいに咲いていました。

またしばらく歩くと、もうひとつ公園があり、おじさんがふたり、犬を散歩させていた。

おじさんたちは、それぞれの犬のひもを外し、芝生の上で自由に遊ばせて、自分たちはおしゃべりを楽しんでいる。犬がどこに駆けて行こうと気にしていないふうだ。犬たちは犬たちで、からみあうようにして転げまわって、はしゃいでいる。

平和な日曜日。

しかし、私の気持ちは、ずんと落ち込んでいた。

アムステルダム国立美術館に到着 しかし観たのは外壁だけ

やっと国立美術館が見えてきた。

さすが国立というだけあって大きい。

ここを訪れるために私は歩いてきたのだ。

しかし、入り口から長く連なる2本の行列を見て怯んだ。

今からこの行列に並んで、さらにこの大きな美術館を見て回る気力はすっかり失せてしまっていた。

行列には加わらず、美術館の脇を回って裏の方へ行くと、美術館の壁にモザイク画があった。

中を見られない代わりに、そのモザイク画だけを写真に撮る。

日本からアムステルダムの国立美術館に行って、壁のモザイク画だけを見て帰ってきた人間は、あまりいないと思います・・・。

しばらく未練がましく周辺をうろうろしていたが、とうとう近くのベンチに座り込んでしまった。

そばに広場があり、プレハブのような小屋でたくさん絵葉書を売っていて、一枚一枚手に取って選んでいる人が何人かいる。

高校生くらいの男の子が3、4人、バスケットボールの練習をしている。

隣のベンチでは観光客らしいカップルが仲良くアイスクリームを食べている。

私はなんだかとても悲しくなった。

棒のようになった脚を投げ出してベンチに座ったまま、情けなくて泣きたくなってしまった。

何をしていたのかなぁ。

疲れたなぁ。

お腹も空いた。

もういいや、アンネの家もゴッホ美術館も諦めてホテルへ帰ろう。

そう決めて私はまた、とぼとぼと歩き出した。運河を渡り、駅への道をゆっくり歩く。

途中で女の人に道を訊かれた。

「国立美術館はどっち?」

「ここをまっすぐですよ。あの建物です」

そう、私も誰かに道を尋ねながら歩けばよかったんだ。

日曜日で大通りに面した銀行もお休み。

ティーンエイジャーの男の子たちが踊るように歩いていく。

家に電話しようかと思ったが、電話ボックスまで行き、ダイアルしかけてやめた。

今、母の声を聞いたらわんわん泣いてしまいそうだ。心配をかけるだけだからやめよう。

私は電話ボックスの隣にあった、ガラス張りの花屋に近づいた。

花屋さんも今日はお休み。暗い店内に色とりどりの花が束になって置かれている。

その花を眺めているようなふりをして、ガラスに張り付き、とうとう私は泣いてしまった。

こんなところで恥ずかしい。悔しい。情けない。

せっかく来たのにな、アムステルダム。

よし、絶対、もう一度来てやる。

今度こそ、国立美術館もゴッホ美術館もアンネの家だって見るぞ、絶対4

考えれば考えるほど泣けてくるので、もうなるべく頭を働かせないようにしようと思った。

ダム広場まで戻り、駅に続く大通りの土産物屋を見ながら歩いた。

絵葉書や木靴のミニチュアを買う。

もういちいち値段を確かめる気力もなく、言われた値段は思っていたより高かったが、16.45Hfl5を出した。

エビアンが染みた夜

駅に着いて15時半頃の電車に乗り、デン・ハーグへ帰る。

車窓から外を眺めているとまた泣きたくなる。

それにしても疲れた。今晩はまともなものが食べたいなぁ。

電車を降りてレストランを探すが、どうしてもひとりで入る決心がつかない。

第一、店自体休みが多い。

イタリアンレストランの前を通っても、中のシェフと目が合っただけで怯んでしまうし、アイスクリームの店(こうなったら夕食はチョコレートサンデーでもいいや)に入ったものの、他の客の物珍しそうな視線に耐え切れずに、注文する前に店を出てしまった。

結局、昨日と同じマクドナルド。もう早くホテルに帰って休みたかった。

やっとホテルの部屋にたどり着き、上着を脱いで、靴も放るように脱ぐ。

テーブルの上にマクドナルドを置き、まずミネラルウォーターを飲もうとした。

蓋のアルミがなかなか剥がれず勢いがついて、開いた拍子に少しこぼれてしまった。

「ああっ!もったいない!!」

思わず声をあげてしまってから自分の言葉に驚いた。

歩きづめで、喉はカラカラだった。

そのエビアンの美味しかったこと!水の有難みが、まさに身に染みた。

明朝、コーヒーを淹れるために、エビアンは少し残し、マックとミルクとサンデーの夕食を済ませた。

その日はテレビを見るのもやめて、6時過ぎにベッドに入った。日記も明日の朝にしよう。

それから私は12時間ほど、ぐっすりと眠った。

13 ロッテルダム駅で夜行を待つ へ続く)

 

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