ロッテルダム駅で夜行を待つ‐1990年ヨーロッパひとり旅 13 Waiting for a night train in Rotterdam St. :Solo-travel to Europe in 1990

1990年2ー3月ヨーロッパひとり旅

※初めてご訪問くださった方へ
本稿に関するご案内をご確認ください。

旅の6日目デン・ハーグのホテルの朝

一瞬だけホークヴァンホランドへ オランダ

翌朝、2月26日。

外は雨が降っているようだ。

結局昨日は、アムステルダム観光どころではなかった。

今日は、さてどうしよう。

当初の計画では、もうすでにドイツに行っているはずだった。

道に迷ってばかりで思い通りにいかない。

天気も悪いことだし、ゆっくり考えてから出発しよう。

昨日と同じように、パンとチーズとハムの朝食。マックのエビアンのおかげで、モーニングコーヒーも飲めた。文句なしだ。

さて、今日は、これからどこに行こう。

ユーレイルパスがあるから、普通車両なら追加料金もかからずドイツまで行ける。

夜行列車に乗ると、ハノーヴァーに停車するのは夜中の3時だ。

早すぎる。

そのまま乗っていれば、ベルリン、フランクフルトへ行ける。

ベルリン。悪くない。

よし、決めた。

ロッテルダム20:11発ベルリン07:38着。

とうとう夜行に乗る日が来たわけだ1

では、夜の8時までどうやって過ごそう。

デン・ハーグからロッテルダムは電車で17分の距離だ。近くにホークヴァンホランド Hoek Van Hollandというところがある。行ってみようか。

ホテルをチェックアウトしたのが10時半過ぎで、まっすぐ駅へ行き、そこでお昼ごろまで時間をつぶした2

ベンチで座っていると黒人の女の子が話し掛けてきた。

「日本から来たの?

これからどこへ行くの?

私は彼氏を待っているの。もうすぐ来るはずよ。

あなたも日本に彼氏がいる?」

おしゃべりが好きらしい。茶目っ気たっぷりに楽しそうに話す。

そのうち、待っていた彼がやって来て、足取りも軽くふたりで去って行った。

ロッテルダム経由でホークヴァンホランドに着いたものの、そこは何もなく、ただ風がビュンビュン吹いているだけだった3

仕方なく今乗ってきた電車にまた乗り、ロッテルダムへ戻る。

さっきと同じ車掌さんがやってきて、私を見ると驚いた顔をし、「何を考えているんだか」と言いたそうに首を振った。私がもう一度、パスを見せようかというそぶりをすると、「ああ、いいよ、いいよ」と片手を振って行ってしまった。

その日の昼間、他に何をしていたのか思い出せない。日記にも書いてない。きっとただ電車に乗って時間を潰していたのだろう4

地元の人たちに交じって、ロッテルダム駅のカフェで

夕方になって、あとは夜行の発車までロッテルダムの駅で待つことにした。

駅員さんに夜行を待つための部屋はあるかと訊いてみる。ホームの待合室の他には特にないという。

外はもう暗い。ホームで電車を待つ人も少ない。

先入観というのは思っている以上に精神状態に影響するらしい。

このとき私は、夜行列車あるいはヨーロッパ全体の治安に対する先入観のせいで、列車を待つ間、要らぬ恐怖心を持ち続けて、本当にちょっとのことで身が縮まるほどビクッとしていた。

それでも最初の1時間は何とかしのぐことができた。

ホームにある小さなカフェ(アルコールも出すらしい)が開いていて、閉店まではそこにいることができたからだ。

入ってすぐカウンターで、その向こうに、中年の、昔はさぞ美人だったろうと思わせるおばさん5とその娘さんらしい人がいる。

あまり広くない店内に6つほどのテーブルが並んでいる。カウンター近くのテーブル2つは、近所のおじさんといった感じの人たちに占領されていた。

入って行って、ミートパイとホットチョコを注文する。

そういえば、ホテルの朝食の他、今日は何も食べていない。

もっといろいろ注文すればいいものを、懐具合と周りの視線が気になって、それだけにした。

おばさんは、私の注文の前に、ひとつひとつ、これは美味しいよとかどんなものということを説明してくれたが、私にはオランダ語が分からない。さかんに指さすのがミートパイだったのでそれを頼んだ。

注文してから、私は夜行の発着番線と時刻を確かめようとしたが、おばさんは英語が話せないらしい。

おじさんのうちのひとり、少し若い(と言っても30歳はとうに越していそうだったが6)浅黒い人を呼び、「この子が何か訊きたいらしいよ」といったようなことを言う。

周りのおじさんはしんとして、呼ばれたおじさんは少し身をそらす。

たいした会話ではないけど、注目されると緊張する。

私の質問の後で、おじさんが「日本から来たのか?」と訊く。そうだと答えるが後が続かない。

列車が出るまでここにいてもいいかと尋ねると、その前に閉店になってしまうので、それまではいいよという答えだった。

店にはシェットランドシープドッグ7がいた。

おじさんたちは常連らしく、犬もよく馴れている。

お腹の出たひとりのおじさんはビールで気分が良くなったらしく、犬の前脚を持ってダンスしたりしている。

お客がおじさんたちと私の他にいなくなる頃には、おばさんも話に加わってずいぶんにぎやかだ。

そのうち、背の高い若い男の人が入ってきた。お姉さんの恋人らしい。みんな顔見知りのようだ。シェットランドもうれしそうに彼を迎えて、脚にまとわりついている。

仲良くふたりが出て行って、そろそろ閉店時間になった。

おばさんは入口の鍵を中からかけてしまった。

店の中が片付くと、おじさんたちとともに私も裏口から出してもらった8

さて本当にホームの待合室しかなくなってしまった。

別のホームにもバーのような店はあったが、もう閉まっていて、カウンターの中でお兄さんが後片付けをしている。

カフェのおばさんは、シェットランドを連れてエレベーターで降りて行った(ホームにエレベーターがあるんだよ!9)。

ホームの待合室で怯えながら夜行を待つ

他に居場所がないので、仕方なく待合室へ入るが、心細くてたまらない。

人が来れば来たで、怪しい人ではないかと身構えるし、誰もいないと寂しい。

不思議なことに私と同じ夜行を待っている人はいないようだ。

このロッテルダムからは私しか乗らないのかな。まさか。みんな、どこにいるんだろう10

待合室の人間が次々入れ替わる。

私は荷物を脇に置いてガイドブックを見ている。警戒心の塊だから集中できない。人が出入りするたび、ドアの方を見て、ベンチに座っている人たちのこともチラチラと観察している。

本当に怖かった。

「もし今ここで襲われてもどうすることもできない」そんなことまで考えてしまう。

何かあったらすぐ飛び出して逃げられるように身構えているので、ガイドブックは開いているだけ、読むことなんてできないという状態だった。

狭い待合室に入ってくる人は、だいたい私をじろっと見る。日本人だからだろうと思うが、もしかしたら私の方も、相手よりもっと悪い目つきで見返していたかもしれない11

いよいよ電車の到着時刻が近づいたので、荷物を持って到着ホームへ移動した。

最初はほとんどいなかった他の乗客もだんだんと集まってくる。

いったいみんなどこにいたんだろう。

おじいちゃんおばあちゃんに見送られる孫の家族がいたり、バックパッカーがいたり、中には日本人もいる。

みんな同じ列車に乗るようだ。これだけ人が集まれば、もう怖くない。

しばらくして到着した列車に乗り込む。

寝台もクシェット12も取っていないから、コンパートメントで夜を明かさなければならない。

さすがに眠るのには具合が悪くて、クシェットを取っておけばよかったと後悔した。

夜中のパスポートコントロールではいきなりドアを開けられるし、乗り心地がいいとは言えなかった。

(ここで、旅日記を基にしたノートは終わっています。この後は、まとめとして書いた原稿とアルバムからの記事として第2章になります)

14 ベルリンの壁を見る へ続く)

タイトルとURLをコピーしました