ブリュッセル2泊目‐1990年ヨーロッパひとり旅 9 Second night in Brussels :Solo-travel to Europe in 1990

1990年2ー3月ヨーロッパひとり旅

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ブリュッセルの夜 ベルギー

ブリュッセル中央駅からまた迷子

中央駅を出ると、もう外は暗かった。

街燈がやわらかい光を放っている。

ちょっと不安になったが、まだ人通りもあるし車も多い。

私は交通整理をしていたおまわりさんに、念のために道を尋ねた。本当はほとんど分かっていたが、なんとなく誰かに話し掛けたい気分だったのである。

彼は、歩いていくのか、トラムで行くのかと訊く。「歩いて」と言うとき、右手の人差し指と中指で、脚の真似をして見せた。

歩くと答えると、フランス語でゆっくりと説明してくれた。「左」という意味の「gauche」という単語の他は、ほとんど分からなかったが1、私はお礼を言って歩き出した。

ホテルに着く前に、もう一度、人に道を尋ねた。今度は、ちょっと本気で道が分からなくなったのである2

「このあたりのはずだけど」と思いながら、映画館の前でプラスティック張りのボックスの中に座っていたおばさんに、まず、英語は話せるかと話し掛けてみる。雑誌を読んでいた彼女は、最初、驚いた顔をし、それから苦笑して、首を振りながら「Non」と言う。それでも、私が手に持っていた地図を見せると、現在位置を指して教えてくれた。

また地図を見ながら歩く。

通りにいる人はなぜか黒人の人たちばかりだった。

かなしいことに、私も偏見というものを持っているらしい。足早に歩きながら、怖いと感じていた3

ブリュッセル2泊目ホテルの食堂で

やっとホテルに着き、ひとまず314号室へ戻る4

窓から外を見ると、向かいの建物の窓にオレンジ色の明かりが漏れ、カーテン越しにふたりの男の人が話をしているのが見える。

しばらく窓の外を眺めてから、ベッドに腰を下ろした。

ベッドには、手編みらしいモチーフをつなげたカバーが掛けてある。

絵葉書を書こうと思ったが、落ち着かない。私は、ペンと絵葉書を持って、階下のレストランに行った。

レストランには、ここの宿泊客らしい家族連れが一組いて、食事をしていた。

私は、ウェイターのお兄さんにミルクを注文した。

大きなジャーマンシェパードが床に寝そべっている。

テーブルの上に射す明かりは暗かったが、居心地は良い。

しばらくすると家族連れのお父さんと男の子が席を立ち、あとにお母さんと女の子が残った。男の子は、レストランを出るとき、ちょっと珍しそうに私を見て出て行った。

部屋にひとりきりでは落ち着かないけど、誰かが同じ空間にいれば大丈夫。

私はミルクを飲みながら絵葉書を書いた。

日本から遠く離れたこの街の、古びたホテルのレストランで、暗い明かりの下、日本語で葉書を書いていることに、ほんの少し、違和感を感じながら。

 

ラストオーダーの時間も過ぎ、閉店時間らしい頃になって、私は40BFを払い、部屋に戻った。

隣の部屋から男の人の鼻歌が聞こえてくる。足音やベッドの軋みを聞いていると、どうもベッドは壁を挟んで隣り合わせの位置に置かれているらしい。

時々調子の外れる鼻歌を聞きながら、私はなんだか聴いていてはいけないような気がして、忙しく洗濯やら洗顔やらをした。

あまりに楽しそうなその鼻歌に、私も何か日本語で歌って聴かせようかなどとも思った。壁が薄いらしく、隣の音がよく聞こえる。

わけもなく私は、ご機嫌な鼻歌氏に自分の存在を気付いてほしくて、わざと物音を立ててみたりした。

ベッドで翌日の計画 アムステルダムの悪評を思い出しながら

あまり隣に神経を集中しているのもおかしいので、私はベッドの上にガイドブックとトーマスクック(ヨーロッパ鉄道時刻表)を広げ、明日の計画を立てることにする。

明日はオランダへ向かうつもりだ。

オランダでは、まずアムステルダム、それからデン・ハーグを訪れてみたい。

しかし、昨日会ったYさんの話ではアムステルダムは物騒な街らしい5

いわく、

「私が今まで行ってみたヨーロッパの街の中で、一番ガラが悪いわね。

なんてったって、列車を降り立ってすぐに、暴走族の落書きみたいなのがあって、なんか、こう、暗いの6

・・・。

ガイドブックにも書かれている。

「アムステルダムを歩くときは、ニューヨークを歩くのと同じくらい緊張して歩こう7

“オランダ=風車とチューリップ”というイメージを持っていた私は、あちこちから耳に入ってくるアムステルダムの悪評に、行ってみる前からもう震え上がっていた。

それなら行かなければいいと言われるかもしれない。実際、私は間際まで迷っていたのだ。

でも、思い切りよく通り過ぎることもできない。

そこで私は、ホテルをデン・ハーグに取り、日帰りでアムステルダムを訪れることにした。

デン・ハーグとアムステルダムとは電車で約40分の距離である。

そして、ブリュッセルからデン・ハーグへの電車はというと、約2時間10分かかる。

明朝11:14にブリュッセル中央駅発で13:23にデン・ハーグに着く列車があった。

列車の時間を決め、旅日記を書き終わる頃には、隣の鼻歌氏も静かになっていた。

「おやすみなさい」

時刻は11時になる前だった。

(10 デン・ハーグへ へ続く)

 

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