グローバル化が進む中、海外と情報を共有したり、違う国籍同士で同じ課題に取り組んだりという場面も増えています。
しかし英語などの語句を日本語に訳そうとするとスパッと短く置き換えられないことも。
この記事では、そうした「日本語に訳しにくい英語」のうち、医薬・メディカル業界で使われている言葉を解説します。
日本語になりにくいメディカル英語
医療・製薬分野で使われる英語の専門用語は、ときに日本語にうまく訳せない語句があります。
一語で言い換えることができないために、単語をそのままカタカナで表記し、それが定着しつつある言葉もありますね。その一部をご紹介しましょう。
アンメットメディカルニーズ=Unmet medical needs
直訳すると、「いまだ満たされていない医療上の需要」というような意味です。
まだ治療法が確立されていない疾患や健康上の問題に対して「治療法や医薬品を開発してほしい」と患者さんや医療現場が考えていて、十分な治療満足度が得られていない状態、またはその治療や薬剤に対する強い要望を指します。
アドヒアランス=Adherence
「患者さんが治療方針について納得し、積極的に自分の意志で治療を受けること」です。
コンプライアンス=Complianceという言葉もありますが、そちらは「患者さんが、医療専門家の指示通りに治療を受ける」という意味となり、受け身の状態ですが、アドヒアランスは患者さんがもっと積極的に治療に関わる意味になります。
しかし実際には、患者さんが医師や薬剤師の指示通りに薬を飲まない場合などに
「(服薬)アドヒアランスが低い/不良である」
と表現するなど、厳密に区別されない場合もあるようです。
ファーマコヴィジランス=Pharmacovigilance
日本語では「医薬品安全性監視」と訳されることがありますが、「ファーマコヴィジランス/ファーマコビジランス」のままでも使われています。
世界保健機関(WHO)により「医薬品の有害な作用または医薬品に関連する諸問題の検出、評価、理解及び予防に関する科学と活動」と定義されている。
―日本薬学会より
薬を意味する「Pharma-」と監視・警戒を意味する「-vigilance」を合わせた単語です。
ちなみに日本語でも「医薬品安全性監視」と言われてもピンとこないように、アメリカ人の英会話の先生に「Pharmacovigilance」と言ってもキョトンとされることがあります。
ファストトラック=Fast Track
医療分野以外でも、「新技術の迅速な開発や導入を促進する制度」のことを言いますが、メディカル分野では
優先審査制度の別称で、必要性の高い新薬の審査を優先的に行う制度。
―製薬業界の転職支援 アンサーズHPより
通常、医薬品の研究、開発には9~17年の時間がかかると言われています。
その間にいくつもの段階を経て、やっと医薬品は市販されるようになりますが、必要性が高く緊急度が高い薬剤に対して、途中の審査を優先的に行う制度です。
レギュラトリー・サイエンス=Regulatory Science
レギュラトリーサイエンスとは、
「科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学」
(第4次科学技術基本計画 平成23年8月19日閣議決定)とされています。
ー独立行政法人 医薬品医療機器総合機構HPより
まだちょっとわかりにくいですね。
レギュラトリーサイエンスとは我々の身の回りの物質や現象について、その成因や機構、量的と質的な実態、および有効性や有害性の影響をより的確に知るための方法を編み出し、その成果を用いてそれぞれの有効性と安全性を予測・評価し、行政を通じて国民の健康に資する科学です。
ー日本薬学会レギュラトリーサイエンス部会HPより
…。正直に言って、わかるようでよくわかりません(すみません)。
クオリティ・オブ・ライフ QOL=Quality of Life
「(患者さんの)生活の質」と訳されることが多いですが、この場合のLifeは、単に「生活」というだけではありません。
精神的・身体的苦痛から解放され、社会的にも経済的にも負担を強いられることなく、どれだけ人間として毎日の生活に楽しみを見出せるか、自分らしくいられるか、充実感、満足感をもって日々を過ごせるかなど、生きる上でのすべてを包括的にとらえた『質』を意味します。
「昔の日本人はすごかった…」吉村昭の小説を読んで思う
このように、日本語にしにくい英語というのはたくさんありますが、昔の日本人はこれらをなんとか日本語にしていたわけですね。尊敬。
吉村昭さんの小説を読むと、江戸時代の日本人の「英語を学ぼう」「英語を日本語に訳そう」という情熱、熱意、工夫に、本当に頭が下がります。
『冬の鷹』は解体新書を訳した前野良沢を主人公にした小説です。例えば「神経」という日本語も、前野良沢が訳語として考え出したとか。
解体新書と聞くと杉田玄白の名前が上がりますが、吉村さんの本によるとむしろ前野良沢の功績が大きいようです。
余談ですが、この中に出て来る平賀源内の最期は強烈です。私の中で平賀源内のイメージが変わりました。
『海の祭礼』は、日本に憧れ上陸したアメリカ人と、長崎で通詞(通訳)として開国に関わった森山栄之助らの物語です。
どちらの作品も、読んでいると
「こんなにテクノロジーが進歩した現代で『英語ができない!』なんて言ってたら、ただの甘えだな」
と思うくらい小説の登場人物の勤勉さ、熱心さに打たれます。
よろしかったらご一読ください。